軽貨物事業者さま、運送委託契約書のご用意はできていますか?

軽貨物事業者さま、運送委託契約書のご用意はできていますか?

運送委託契約書は事前に用意しておくべき理由

これまで商習慣やお付き合いの事情で、細かな条件を何も言わずとも阿吽の呼吸で運送受委託をしてこられた事業者さまもいらっしゃるでしょう。
しかし、物流2024年問題の警鐘が鳴らされ、物流の労務環境を改善すべく、取引の適性化も政策として取り上げられました。

 

このため貨物自動車運送事業法の改正により、2025年4月1日からいくつかの義務が始まりました。そのなかの一つに書面の交付の義務化があります。
この書面とは、運送委託契約書や運送依頼書を指します。
参考:運送契約締結時の書面交付義務化

 

「取引は当事者が対等な立場で」というのが原則です。しかし、現実には力関係が生じています。やはり、「お金を生み出す側(B to Bでは依頼発注側)」が強いものです。
このため契約書も、力の強い側が用意することが多いです。なぜなら「依頼者優位の内容にしたい」という意図があるからです。物流では、荷主側(依頼主)が振り出すことが多いです。

 

そうはいっても契約書を用意していない荷主さまもいらっしゃいます。この場合、「契約書はそちらが用意してもらえる?」とあっさり頼まれることもあります。
こんなとき、すぐに契約書を用意できないと、取引相手として相手さまを不安がらせてしまうことになります。

 

用意すべき運送委託契約書とは

契約書の基本知識(運送委託契約書の場合)

貨物自動車運送事業には、国が「標準運送約款」というものを用意してくれています。ただし、約款は不特定多数に向けたものです。
これに対して運送委託契約書は「荷主と実運送事業者の間で特別な条件を示した、個別にカスタマイズされたもの」という位置付けになります。

 

なお、継続・反復的に受委託が行われる場合、契約書は「基本運送委託契約書」「個別契約書」の2種類を用意するべきです。

 

基本契約書は、取引の基本的な部分を定めて締結します。内容は、契約期間や業務範囲、義務や禁止事項、トラブルに遭った場合の措置などになります。

 

個別契約書は「運送依頼書」の位置付けで、発注ごとに振り出すものに当たります。今回義務化されたのはこちらで、次の事項が必須記載事項となります。
必須記載事項

  • 運送役務の内容と対価
  • 運送契約に荷役作業・附帯業務が含まれる場合は、その内容と対価
  • その他特別に生じる費用に係る料金
  • 契約の当事者の氏名または名称・住所
  • 運賃・料金の支払い方法
  • 書面を交付した年月日
  •  

    契約自由の原則

    契約書が無くても、契約は合意さえあれば有効です。
    契約の内容は、法令が求める最低条件さえ満たしているのであれば、何を盛り込んでも構いません。逆に、法令で禁止されていることを盛り込んでも、その部分は無効となります。
    例示: 優越的立場の濫用と認められるもの、違反行為を強要するもの等

     

    盛り込んだ方が良い条項

    契約書が真に役立つときというのはトラブルになった時です。

  • 言った、言わないの問題が生じるかもしれません
  • 荷物が何かの原因でダメになっているかもしれません
  • 配送事故を起こしたことを理由に、無視できない賠償額をペナルティとして課されるかもしれません。
  •  

    このようなときに損を拡大させないための防衛手段が、契約書です。
    締結された契約書に書かれていることは履行しなければならず、書かれていないことは、履行義務がないからです。
    さて、契約書を水から用意するときは、まず「自分のための標準契約書」の作成を目指します。
    標準契約書とは、自らの標準規格の内容を定めた契約書です。「相手が承諾するならこの条件で」という内容を盛り込みます。

     

    契約は交渉が当たり前なので、相手の要望もあることでしょう。その妥協点・落とし所を用意する意味でも、まずは自分本位の条件を明示するのが良いでしょう。

     

    運送業務に関する条項(=運送の役務とその対価)

    運送業務の詳細を明確にする条項

  • 運送区間と経路
  • 運送期間
  • 運送方法(常温・冷蔵・冷凍等)
  • 荷物の種類と数量
  • 運賃の計算方法
  • 支払い条件
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    責任・危険負担・事故対応

    事故・トラブル時の対応を定める条項

  • 荷物の損傷・紛失時の責任範囲
  • 天災・不可抗力の定義
  • 事故発生時の報告義務
  • 損害賠償の上限額
  • 保険の適用範囲
  •  

    標準契約書が用意できたら、あとは相手に合わせて、余分な条項を落としてスッキリとした・でも損はしない内容にアレンジしましょう。

     

    契約書作成の現場

    「ひな形を頂けませんか?」と申込みされることは多いのですが、正直ひな形を「そのまま」使用することはお勧めできません。
    たいていのひな形は、必要最小限のことしか記載がありません。そのため、白トラ行為などの違法をどう防ぐか、荷の毀損といった場合の事故の処理方法や賠償責任の取り決めといった細かい部分に手が届いていないことがあります。
    ※2025年6月に改正法が採択され、白トラ行為を知って依頼した側にも刑事罰が及ぶことが確定しました。

     

    また、運送委託契約と言っても「荷主−実運送事業者」のものと、「委託者(運送事業者)−実運送事業者(再委託)」のものでは記載すべき条項が変わってきます。

     

    それぞれ、様々なトラブルのケースを想定し、ダメージコントロールできる道筋を考える必要があります。これはかなり細かい作業になります。けれども、自分のビジネスのリスク潰し作業でもあるので一番の頑張りどころでもあります。

     

    第一歩として、手持ちの契約書の内容を見直してみましょう。 自分だったらこうする、こういった内容を追加したいといったことが見つかるでしょう。

     

    専門家の活用法

    自分で見直したり作成するのは自信がない、という場合は外部の専門家に依頼するという道があります。
    一人親方の軽貨物事業者さまにとって、契約書作成は時間的・経済的負担が大きいものです。しかし、トラブルを防ぐための投資として考えることをお勧めします。
    専門家を頼るので、自分が思う相場観と釣り合わないかもしれません。また、きちんとしている専門家は必ずヒヤリングをきちんと行います。

     

    作成でなく既存の契約書をチェックしてもらうという事も依頼できるでしょう。
    これは、

  • 相手から示された契約書の内容をきちんと理解したい、負うリスクを把握したい
  • 手持ちの既存契約書を作成の「たたき台」にするため、内容を精査してもらう
  • ことが目的になるでしょう。
    この場合はチェックを受けることのみで、修正は受けられないことが普通です。
    修正は修正で別費用がかかって、最初から作成してもらった方が安かったということになるかもしれません。

     

    また、契約書のチェックという行為そのものが、契約当事者の有利不利を判断する:弁護士資格のみに許された「鑑定行為」だという意見もあります。これは弁護士法第72条で弁護士以外は禁止行為に該当するので、能力の問題ではなく法的に、誰でも行えるわけでもありません。
    (同様に、相手との契約交渉を行うことも弁護士以外は禁止されています)

     

    このため契約書チェックは、自分で作成ができる人だけがセカンドオピニオンとして依頼すると良いでしょう。

     

    その他の契約書

    これまで運送委託契約書に絞って記しています。
    標準契約書を一つ持っておけば、それを基にアレンジを加えて複製すればよいのですが、属性の異なる契約書はやはり新たに起こさなくてはなりません。
    例えば貨物自動車運送事業そのものではないけれど、隣接する事業で必要になりそうなものは

  • 秘密保持契約書
  • 自動車リース契約書
  • 業務委託契約書
  • フランチャイズ契約書
  • といったものが考えられます。

     

    こうした契約書を用意しようとするとき、自作できそうになければ外部にお任せする方が人脈作りの投資も兼ねることができます。
    契約書だけの専門家、というのはまずおらず、他の面でもお世話になることがあるかもしれないからです。
    運送業は何かとトラブルが多い業種です。
    契約書だけの依頼では値段を考えると、弁護士よりも行政書士になってしまうかもしれません。
    それでも今後のために弁護士さんとお知り合いになるきっかけと思えば、弁護士への依頼も良いでしょう。

     

    お問い合わせ

    運送委託契約書の作成やチェックでお困りの際は、お気軽にご相談ください。運送業界に特化した行政書士として、実務に即した契約書の作成をお手伝いいたします。
    当事務所に、メールでのお問い合わせはコチラまで。