監査に入られた!(改善基準告示)

監査に入られた!(改善基準告示)

”監査”は巡回指導とは違って格段に厳しいです!

監査とは

運輸局は、一般貨物自動車運送事業の許可を取得した事業者さんを監督するための方法に“監査”というものがあります。悪質な法令違反が疑われるときに実施される特別なもので、2,3年に一度行われる巡回指導とは別のものです。
監査で「悪質な違反行為」が認定されると行政処分を受けることになります。審査基準にしたがって違反点数が付与され、場合によっては車両の使用停止命令、重いと事業停止命令、最悪の場合は許可取消しとなります。

 

監査は「違反点数を付与されて終わり」ではなく、巡回指導と同じく、違反事項に対して改善報告が求められます。この改善報告こそ大変で、違反行為ゼロでなければなりません。巡回指導では甘めな判定でも、監査は容赦なく指摘してきます。
結論でも記しますが、この事業者さまは結果として、違反ゼロの労務環境改善のために年間500万円の人件費増となりました。

 

わたしがこれまで監査の対応支援となった事例は

  1. 無免許運転の発覚
  2. 死亡事故
  3. 従業員の内部通報
  4. 巡回指導E判定

をきっかけとしたものがあります。この記事でご紹介するものは3.従業員の内部通報によるものです。

 

監査の時系列:きっかけ〜改善報告終了

監査のきっかけ:労働局からの通知(8月2日)

8月に入ってすぐ、労働局から「違反の報告がありました。下旬に監査に伺います」と通知が入りました。ちなみに労働局さんは独自の抜打ち監査にくることもあります。
今回は元従業員が「勤務先が違法な長時間労働を行っている」と労働基準監督署に通報したため、労働局から監査がありました。(通報を受けた行政機関は情報源を決して明かしません。なぜ内部通報と把握できたかというと、従業員の間で元従業員から「労基に通報したから」と連絡が回ったようで、それを社長の耳に入れた従業員がいたからです)
※実のところ、運輸局や労働局は直接タレコミがあると動かざるを得ない立場にあります。またこれを利用して、勤務先に嫌がらせをするため行政窓口に通報して回る労働者もいます。本件の元従業員さんの前勤務先も監査に入られていることを、行政処分事業者リストから確認しています。

 

労働局監査の当日(8月26日)

労働局の職員さん1名がやってきて、直近3か月分の業務日報・点呼簿・タコグラフチャート紙・日常点検簿を、最も給与額の高い者から3名分、その他運送事業者が備え置きしておかなければならない帳簿類、労務関係の帳簿類をすべて持ち帰っていきました。なお運輸支局監査※では3名の職員がやってきて、上記の書類をすべてスキャン・写真撮影をして持ち帰られました。
※重大違反では地方運輸局が、通常違反であれば運輸支局が監査を行います。
なぜ一番給料の高い運転者さんのものから3名なのかというと、運送業の給料は歩合制を取る事業者が多いため、「高給取り=長時間労働違反の可能性」という認識が行政側にあるからです。

 

監査の精査は巡回指導とは比べ物にならないほど緻密なので、日勤でもない限り3か月分も持ち帰られると何かしらの違反は把握されるでしょう。社長とは「いまは成り行きに任せるしかないですね」と事態の推移を待つしかありませんでした。

 

監査結果の通知(8月28日)

翌々日に労働局から監査結果が通知され、

  1. 労働法が定める帳簿類を備えていないこと
  2. 事業用運転者が遵守しなければいけない改善基準告示の違反が見つかったこと
  3. 2.を理由に運輸支局に通報※を行ったこと

を告げられました。
※関係機関通報:労働局と公安委員会は重大違反を把握すると、監督官庁に通報する義務を負っています。

 

指摘された違反事項と改善報告の求め

労働局から求められた改善報告事項は大まかに

  • 労働法で義務付けされている帳簿類の整備
  • 従業員全員の拘束時間・労働時間・時間外労働時間・深夜帯労働時間・休日労働時間の集計
  • 指定する運行3ルートを改善基準告示の時間内に収まるよう労働環境の整備

3種類:11項目でした。1項目あたりには「複数のしなければならないこと」が含めてあります。
8月下旬の監査、9月から1か月の間、すべての項目で違反なしとなるよう改善報告を求められました。さすがに労働環境の改善は@人手不足が原因であること、A便を減らすにしても、実際には取引先と調整が必要なことを理由に10月スタートを申し出て了承を受けました。

 

簿類整備+運行計画改善の準備、そして運輸局から通知(9月)

9月いっぱいをかけて、労働法上の必須帳簿類を整備。この分野は社労士さんの分野なので行政書士のわたしが手を出すわけにもいかないので、事業者さまに頑張ってもらいました。
その間に長時間労働となっている運転者すべてのチャート紙1か月分を分析し、違反にならないような案を思案。
そうこうしている9月中旬に、運輸局から「労働局から通報があったので特別巡回指導を実施します。労働局が指名した3名の、10月1日〜16日までの業務日報・点呼簿・チャート紙を10月21日に提出のこと」という通知がありました。
※「特別巡回指導」 通常の巡回指導と異なり、37項目のうち調査項目を限定したもの
9月末には事業者さまの頑張りもあって、帳簿類の整備は完了。10月上旬に労働局に提出してこちらは了承されました。

 

改善本番の実施と結果:労働局監査+運輸局特別巡回指導(10月)

10月に行わなければならないことは

  • 改善基準告示に違反しない運行
  • 労働時間等の集計

です。運輸局が求めたのは指名する3名の半月分に対し、労働局が求めたのは指定する3運行ルートの1か月分という違いがありました。正直、労働局監査のほうが厳しいです。
改善基準告示に違反しないようにするために運転者を2名雇用し、増員しています。

 

結果通知は運輸支局のほうが早く、

  • 1名:連続運転時間違反1回
  • 3名:運転時間違反(2日の運転時間を平均し、連続して9時間を超えてはならない)各人6回

の指摘を受けました。ここで指摘はありませんでしたが、

  • 2週を平均した1週間当たりの運転時間:44時間に違反

もしています。そして11月1日〜16日の期間での改善報告を求められました。
運輸局側で指摘を受けたので労働局からも指摘を受けることは必至でした。
労働局からも拘束時間や労働時間はクリアしていたものの、運転時間違反の指摘を受けました。ただ、労働時間等の集計自体は了承を頂き、11月の1か月分を改善報告することになりました。
10月中に運転時間を削減する方法を再度思案し、10月の最終週から改善案を実施しました。

 

再度の実施と結果(11月)

一度で改善できなかったため2か月目の遵法期間です。一切の違反ができないのはかなりのプレシャーです。取引先にも少々わがままを聞いてもらっている状況です。
連続運転時間違反はめったにないことなので、社長から運転者全員に連続運転時間をギリギリまで攻めないように改めて指示を出し、全社で取り組む必要と、居心地の悪さを我慢してもらうお願いを改めて行い、今月で終わらせることを全員で誓いました。

 

二人乗務特例、分割休息特例、社内中継輸送を使って運転時間を削減し、ギリギリであるもののなんとか改善基準告示違反ゼロで運輸局・労働局の改善報告をクリアできました。

 

労働局・運輸支局、改善を確認(12月)

報告を提出し了承を受け、これで監査の終了を迎えることができました。
ちなみに労働局の審査では少し見解の相違がありました。「1名の総拘束時間が312時間となっており、違反です」との通知がありました。
これに対して「〇日と〇日の運行を、分割休息を採用しているため総拘束時間は307時間のはずです。再集計をお願いします」と弁明し、申し立ては了承されました。もしこれが通らなかったら、年末繁忙期中を違反ゼロを意識しながら運行するというストレスフルになるところでした。

 

この事業者さまは現在も改善された運行を実施していらっしゃいます。

 

事業者さまが負った負担

この監査をクリアするにあたり、事業者さまも無傷ではいられませんでした。新たに雇った2名の人件費が今後ものしかかってきます。売上は何一つ変わらないのに「概算で、年間500万円程度の負担増」とのことです。
通常、労働時間を削減するためには便数を減らすことが多く、利用運送で代走してもらうなど庸車費が負担となること、絶対便数が賄えず便数そのものが減ることなどが重なり、監査の改善報告に対応した場合、売上の1〜3割相当を失うことは普通です。
これを避けるためには日ごろから改善基準告示の範囲内での運行に収める必要があることがお分かりのことと思います。

 

そして荷主さまに納品時間調整を承諾してもらえるよう説得すること、社長自らハンドルを握ってもらうことなど社長ご自身が汗をかかざるを得ない仕事もありました。

 

わたしが支援で行ったこと

下準備

この事業者さまはデジタコを導入されていないので、チャート紙から運行状況を把握する必要がありました。まず「誰が」「どんな運行状態で」「どのような違反があるのか」を知るため、拘束時間が長い5人をそれぞれ1か月分精査するところから始まりました。
この事業者さまとは巡回指導の準備支援サポートからのお付き合いで、2024年の改善基準告示改定に合わせて「段階的に改善していく計画」の改善途中だったので、違反はそれほど深刻ではない状態でした。
運行計画立案は分割休息特例を交えつつ、中途半端な休憩の取り方を改めれば拘束時間の削減そのものは容易に思えました。ただ、荷待ち時間はほぼなく、積み卸し時間も短時間であったので運転時間の削減は頭を悩ませる問題でした。

 

監査ならではの厳しさに備えて

9月の時点で「運転時間の違反を指摘されるかもしれない」旨はお伝えしていました。違反は違反でしたが巡回指導では指摘を受けるケースがなかったので「とりあえず様子を見てみようか」ということになりました。そして指摘を受けたときに備えて代案を3つ示しました。
おそらく約1日分の運転時間の削減する必要があるため

  1. 誰かと二人乗務をしてもらい、1日ナビに終始する。
  2. 運転時間の少ない者や指名を受けていない者に週1日代走してもらう
  3. 近くを運行する4時間分を社内中継輸送して、早めに業務終了させる

といった案を提示しています。

 

実施期間中

改善期間中の運行は毎日送られてくるチャート紙を違反がないかチェックし、労働時間等を集計していました。そして毎週事業者さまを訪問し進捗確認と経過報告を行いました。
変わらず連続運転時間を攻めている運転者に注意をしてもらったり、ときには運転者と「違反を避けるためにはどうしたらよいか」直接お話しして納得してもらったりをしていました。
月の下旬に入ると総拘束時間の見通しを予測し、社長と分割休息がとれないか相談したりなどをしていました。

 

監査対応を支援した感想

伴走者として

実施事項ばかりを記していましたが、心情面に目を向けると、監査を受けた事業者さま社長の憤りと落ち込みが1か月は続いていました。というのも、件の元従業員とは長時間労働になることは入社面接でお互いに了承済みであったし、それに見合う給与も支給していました。これは労働局監査で給与未払いの指摘は無かったことが真であることを裏付けています。このため「従業員に裏切られた」という強い思いを感じていることは誰の目にも明かでした。
また「どうして一般貨物はこんなに規制だらけなんだ!」との怒りもあり「今度何かあったら辞めてやるわ!」と何度も発していらっしゃいました。
こうした社長に寄り添い、苦い思いを緩和することもわたしの務めでもありました。

 

このような心労の中で慣れない書類作りや手探りで法令順守を目指すというのは、

  • もし、お一人で支援がなければズルズルと長期化したかもしれない
  • 長期化するほど出費が重なり資金体力に深刻なダメージが入った可能性

も考えられました。実際、行政処分による収益性悪化がきっかけで会社が倒産する事例もあります。
今回そうならなかったのは、たまたま監査対応できるわたしと相談できる関係性があったことが幸いしたと自負しています。

 

影の功労者

改善報告が短期間で終えることができたもう一つの要素は「運転者さんも協力の理解があった・改善基準の知識があった」ことです。これは社内教育の賜物で、過小評価できません。
運転者さんご自身が改善基準告示に理解があると説明が通りやすいし、なにより社長・運行管理者と良好なコミュニケーションが取れる関係性は、こうした全社的対応をするときにスマートに実施することができます。
わたしは運転者さんと直接お会いしたことはありません。怪しい宮廷魔術師のように「誰だコイツ」と思われていたかもしれません。
だからこそ、事業者さまがこうした社風をお持ちであったことはわたしにとっても幸運でした。
これは事業者さん社長の人徳と賜物です。

 

総括

事業者さまと二人三脚で危機を乗り越えることができました。わたし一人だけで達成できるものではありません。
監査は基準がはっきりしています。泣き落としは効きませんが、真摯な態度は心証が良いです。監督官庁も警察的に取締ることが目的でなく、適性化させることが目的ですがそれでも悪質な違反にはペナルティがあります。
なので、もし「監査になるかも?」という心当たりがあるようでしたらご相談・ご用命いただけたら幸いです。

 

時折電話で新規許可取得のご相談を頂くことがあるのですが後で振り返ってみると、監査のおそれがあって、事業停止や許可取消しを想定して、新たに許可が欲しくなって相談を持ち掛けたのかな?と思えるものがあります。
「予備の許可が欲しい」というニーズも分かりますが、既存の事業体も大事にしましょう。

 

お問い合わせ

わたしは、監査や巡回指導の事前準備や改善報告に対応できる数少ない行政書士のひとりです。コンプライアンスに不安があるときはご用命ください。
予備の許可についてのご相談も承っています。
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