一般貨物許可申請で資金不足──資金計画策定の現場

一般貨物許可申請で資金不足──資金計画策定の現場

一般貨物許可申請の資金計画額面を下げるため専門家として知恵を絞る

一般貨物自動車運送事業の許可申請では、申請書類の中でも特に「資金計画」が大きな壁になります。資金要件があるため、計画だけでなく実際に必要資金を調達しなければならないからです。
今回はのっぴきならない状況まで追い込まれた、ある依頼者さまの資金計画額を大幅に削減したケースをご紹介します。
ただし先にお伝えしておきます――こうした事例は「個別的なもの」であり、

  • 賃料はいくら?
  • 車両取得費は?
  • 給与額や役員報酬は?
  • 人によって状況が異なるものを相場として語れるものではありませんし、他の人に転用できる保証はありません。ですので、決して安易な期待を抱かせないよう、具体的な金額は伏せてあります。

    ****万円は必要ですよ?――そこからのスタート

    6月、新規許可取得のご相談をいただき、申請内容の説明をしに依頼者さまのもとへ訪問しました。お聞きした内容から、不透明な部分(賃料や車両取得費)も含めた上で、目の前でExcelを弾いて「****万円ほどは必要になるでしょう」と説明しました。
    依頼者さまからは「大丈夫です」との返答をいただきました。

     

    もちろん、実際の資金計画は細かい条件が固まらないと見えてきません。
    削減の余地はあること、工夫次第で減額可能な部分もあることは伝えた上で、稼働すれば経費は高くつくので

  • 運転資金に余裕を持たせるため「創業融資」の申し込み
  • も検討するようアドバイスしました。銀行さんとのお付き合いは避けられないし。
    新法人立ち上げからのスタートということもあり、融資入金は高確率で許可取得後になる見込み。そのため、いわゆる「見せ金」として、許可取得に必要な資金額を調達できないリスク・その場合は全力で銀行を説得しなければらなないこと・わたしは同伴ができないことをお伝えしました。

     

    車庫探しと並行して資金調達――動き出す準備

    その後、ご依頼の連絡があり、融資も同時に進めることになりました。
    わたしとご依頼者さまで申請準備と並行して融資申込みのための創業計画書を作成。
    依頼者さまは勤務先からの独立ということもあり、経費や売上目標の設定は非常にスムーズでした。ただ、いざ原価計算を詰めると、最低売上ノルマを超えそうな厳しい現実に直面。このあたり管理会計のように数字を変えつつ、悩みながら経費と売上を設定し、赤字にならない見通しの計画書をたてました。

     

    8月には創業計画書を納品し、車庫候補地も決定。賃料の支払いは可能な限り待ってもらえるよう頼み込むよう指示しました。資金要件をみたせるよう許可取得までは無駄に所持金を減らせません!
    必要な幅員証明や営業所・車庫の図面も調えましたが、ここで一時連絡が途絶え、再度連絡があったのは10月でした。

     

    「今月中に申請しないと」――試験日が迫る

    10月なので「今月中に申請しないと11月試験にエントリーできません。そうなるとご希望の3月スタートに間に合いません!」と伝え、準備を急ぐようお願い。融資の申込みは決済までいき、許可取得後の入金とのこと。やはり許可前はできないとの回答でした。

     

    ところがここで問題発生。
    譲って頂くはずの車両調達の目途が先様都合でなくなってしまったとのこと。車両取得費を積み増さなければなりませんでした。
    「資金****万円は大丈夫ですか?」
    「えっ?! ****万円しか集めれません……」と。
    最初にお伝えした****万円という額を忘れておられたのか聞いていなかったのか、不思議そうな顔。ご依頼者さまの現実的な数字はとてもじゃないけど資金計画の額にはるかに及ばず。どうしよう……
    ちなみに依頼者さまたち全員、勤務先を辞めた後で車庫賃料の支払いも翌月から始まる、もはや引き返せない状況。

     

    ここで「お金が無いと許可取得は無理です」と諦めることもできましたが案が無いわけでもなく、依頼者さまと話し合いの上、

    • 審査に引っかかるか分からないけど、やれるだけやる。
    • 許可取得の保証が全くできない。できなくてもわたしのせいにしない。

    など、かなりのリスクを了承いただき予算組み直しへ。

    とにかく、車両は予算内で調達することを指示。
    登記変更や走行距離の合理的な理由づけなど、できる限りの調整と想定される想定問答を行い、申請窓口と複数回相談をし、最初の概算から〇割近くまで削減しました。

     

    10月末日、ぎりぎりの申請――しかし…

    何とか車両も見つかり車検証は後日提出するという、書類不完全ながら近日中の補完を条件に10月末日に申請。なんとか11月の役員法令試験に滑り込み。試験も無事に合格されました。
    ところが提出すべき車検証、待てど暮らせど連絡がない――

     

    12月に入り、いよいよ中国運輸局からも車検証を提出するよう催促が来る始末。急ぎ依頼者さまへ確認すると、車両価格が安すぎるため「一括払いしか認めない」と販売店から言われていて売買契約がまだできていなかったとのこと。
    「社長。申し訳ないですが虎の子の預金を取り崩してください」と決断を迫り、売買契約を成立させました。このお金は、出口戦略の防衛ラインだったものです。本当に社長の人生がかかった分水嶺でした。

     

    車検証を運輸局へ送ると担当から「取得金額を資金計画へ繰り入れるよう」指示を受けました。しかしそれは飲めない指示でした。資金計画が、残高証明を上回る「資金ショート」になるからです。
    「それは社長のポケットマネーで購入したもので、法人へ無償譲渡物件です」と運輸局に説明しましたが、「事情を知ってしまった以上、審査基準に則り温情は与えられない」とのことで折衝は不調に終わり、資金ショート=審査通過不可が確定しました。

     

    そして依頼者さまに了承していただき、許可申請を一旦取り下げざるを得なくなりました。

     

    年末ギリギリの再申請――そして許可取得

    そうは言っても運輸局も人の子。優しい! 再申請を勧められました。
    落ち込んでいる暇はない。心を殺して事態に対処することだけに集中!
    すぐに依頼者さまを「まだ何も失われていないから! 時系列の問題だったから再申請すれば大丈夫!」と説得して再度残高証明を取ってもらい、3日後の年末最終日に再申請を滑り込ませることができました。
    申請窓口では「資金ショートしたんですね」と声をかけられる場面もありましたが、できることはすべて行いました。
    これでわたしもご依頼者さまも、不安を抱えたまま年越しをせずに済みました。

     

    歓喜:許可がおりた―!!

    翌年1月、思いがけないことに、許可がおりました。
    また3か月は待つものと覚悟していましたが担当者さまのご配慮か、10月末申請分からの審査期間を考慮していただけたようです。

     

    2回目の残高証明の提出。保持預金額は必要資金+20万円という非常にギリギリの状態。
    許可証の受取後、すぐに銀行へ赴き、融資手続きを実行。無事に資金体力も回復し、本命車両購入にもつながりました。
    それ以上に、社長家を潰さなくて済んだことが個人的に一番安心したことでした。

     

    反省会

    最初にご説明した資金計画額から、およそ半分の水準まで削減しました。わたしとしては最少金額更新です。
    とはいえ、資金計画は事業継続性を計るものでもあるため、ある種の参入障壁の役割を果たします。
    この方法は参入障壁をテクニックで粉々にするという「モラルに反したもの」と内心思っており、使えるからと言って積極的に使いたいとは思っていません。
    ただ「最後の砦の」選択肢としては、放棄したくもありません。

     

    この事案は最初からご相談いただいて、都合の悪い部分を隠すこと・逃げ出すことのなかった依頼者さまの采配が好転しました。お互いリスクを負う覚悟と、行政側との調整、依頼者さま側の協力があってこその結果です。

     

    都合の悪いことを隠すこと・逃げ出す依頼者は多いです。
    その程度にわたしを信頼してもらえていないわけですが、「隠さず伝えてくれていたら手遅れにならずに済んだのに」という事例が多いのも事実なのです。

     

    「申請書類の作成」は単なる書類仕事ではなく、事業全体の設計と資金計画が絡みます。そして「テクニック」が存在することも事実です。
    障壁があるのなら立ち向かうためにも、早めに専門家へご相談ください。

     

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