
葬儀で使用する霊きゅう車は、白ナンバーでは斎場に入れません。なぜなら霊柩車(以下、「霊きゅう車」という)の運用は緑ナンバー、つまり一般貨物自動車運送事業の許可が必要だからです。
この記事では、一般貨物自動車運送事業許可の『霊きゅう限定』許可の特徴と注意点を解説します。
通常、一般貨物自動車運送事業の許可はトラック事業を対象にしているのですが、例外的な取扱いとして「霊きゅう限定」という区分があります。この記事は霊きゅう車の許可取得を目指す方:主に葬儀会社や受託事業者に向けた記事となっています。
霊きゅう車の許可申請も一般貨物自動車運送許可です。基本的に通常の一般貨物の許可申請と同じです。
しかしトラック事業=通常の一般貨物自動車運送事業の許可申請とは少し違いがあります。
霊きゅう(限定) | 通常 | |
台数 | 1台から | 5台から |
運行管理者 | 5台から必要 | 必要 |
整備管理者 | 5台から必要 | 必要 |
車種 | 霊きゅう車に限定される | 貨物自動車・霊きゅう車 |
営業地域 | 限定される | 限定されない |
※霊きゅう車は「霊きゅう車」と「寝台車」に分かれますが、この項では同義です(霊きゅう車については後述します)。
表のとおり、霊きゅう車の許可は1台から申請することができます。また必置資格者も、5台未満は不要となります。
最少構成(常勤役員=運転者 兼 運行管理責任者 兼 整備管理者。車両1台)であれば準備しなければならない必要資金額面は通常のの申請よりも低く抑えることができます。
そのため通常の許可取得と比べて、申請準備のハードルは相対的に低いものとなっています。それで
・個人事業主でも許可取得がしやすい。
・外部に委託していた葬儀会社が霊きゅう車部門を内製化しやすい
ことが特徴です。
一般貨物の許可申請についてはコチラをご覧ください。
以下は霊きゅう限定許可の特徴を挙げます。
営業所・車庫に使える不動産選定は共通のネックポイントです。
しかし葬儀会社であれば、自前の葬儀場の敷地内を営業所・車庫とされるでしょう。
個人で葬儀会社から委託を受ける場合でも、霊きゅう車の全長が収まる駐車場さえ用意できれば、あとは難しいということはないでしょう。
霊きゅう車の種別には
があります。
最近は宮型の霊きゅう車を見る機会はめっきり減っています。これは宮型霊きゅう車が違法になったわけではありませんが、次の理由で採用が減っています。
あからさまに霊きゅう車と分かる形状が
といった時代の環境変化によるものです。
斎場の管理規程でいうと、中国地方では東広島市:黒瀬斎場使用案内が参考になります。
【参考】: 黒瀬町における葬儀及び火葬について
本文に「霊柩車とわかるような宮型及びレザー張り等の霊柩車の乗り入れをご遠慮いただくようお願いしています」とあるように、ここは洋型であってもセダン型の乗り入れも難しそうです。
このような事例を見ると、事業効率を考えれば車両はバン型統一が無難と思えるでしょう。
しかし葬儀・供養では、喪主や故人の宗教儀礼や格式への配慮、死生観、美意識といったものが影響します。
一般にセダン型とバン型を比較すると
という、車格から生じるイメージが葬儀全体の印象を左右することがあります。
このあたりは世代ごとに意識の違いがあるものの、合理性だけで車種選択ができない点は事業計画上の考慮が必要です。
運輸開始届出後、3か月以内に「巡回指導」という営業所チェックの案内が届きます。霊きゅう限定とはいえ、運輸局の一般貨物自動車運送事業者として当然の運行管理体制のチェックを受けることになります。
この巡回指導の評価が悪ければ運輸局から呼出指導がかかり、場合によっては半年後に再指導、そこでも悪ければ再々指導、これでも悪ければ「法令順守の意思なし」とみなされて「監査」に踏み込まれる事態にも発展します。
5台未満だと運行管理者・整備管理者の選任は義務ではありませんが、代わりに運行管理責任者・整備管理責任者を置くことになっています。この責任者たちに特別の資格や経験は不要ですが、運行管理と車両管理を担うことはトラック事業と同じです。
運転者に安全教育を行い、点呼を取り、業務日報を付ける。車両は日常点検・定期点検をしなければなりません。
個人事業主であっても事業運営において法人との差はありません。
ただし、個人事業主の許可は個人に帰属するため、事業承継手段が「相続」か「譲渡譲受」の認可申請に限られます。
法人であれば、法人格に許可が下りるので、社内体制を変更する、つまり社内承継・社外承継に係らず、代表取締役を変更することで経営主体者を入れ替える=事業承継ができるのですが、個人事業主ではこれができません。
このため事業承継を見据えるなら、法人化と許可取得が無難です。
個人事業主の許可承継のデメリット面は
相続の場合、被相続人(個人事業主のこと)の逝去から60日経つと許可が自動的に消滅。相続人のみ申請権があり、他の全相続人の承諾と必要資金の調達が必要になります。これを「60日以内に申請しなければならない」という準備期間の短さがネックです。
時間が間に合わなければ、新規に許可を取り直す事になります。
個人事業主だと生前手続きになります。許可を譲渡する側と承継する側の合意によって譲受側が申請者となって、許可要件を調える:主に必要資金の調達が必要になります。
例え、その事業所の従業員であっても資金審査は免れません。
これらは共通して、霊きゅう限定に限らず、許可を第三者に移すときは資金確保が必須になります。
通常の一般貨物自動車運送事業でも少ないながら、個人事業主の方がいらっしゃいます。
こちらは特に、許可を引き継ぐときに資金要件のハードルが新規申請よりも高いことを知って頂きたいと思います。
もし事業承継でお悩みであれば、公的機関の利用も選択肢に含めると良いでしょう。
葬儀会社さまに限らず、営業所を増やすときも、新規許可申請と同じ申請条件で営業所を新設できます。
営業エリアが拡大するとき、営業所の新設のしやすさも霊きゅう限定許可の特徴です。
霊きゅう限定営業所の営業エリアは「営業所がある県全域」が最大となっています。実際の運用は「営業所がある市全域(またその隣接市)」が多いのではないでしょうか。
そのため負担が大きくならないよう、長距離運行をこなすよりも営業所を増やすほうが賢明でしょう。
もちろん増車をし、一つの営業所で5台以上にする営業判断も執れます。
この場合、運行管理者(国家資格:試験は年2回)や整備管理者(国家資格 or 実務経験)を選任しなければなりません。
また、車両5台以上、運転者5名以上、運行管理者と整備管理者の選任という通常の許可基準を満たしているのであれば、「限定」を解除することができ、トラック事業に参入することもできます。
この場合、許可基準を満たさない営業所は「霊きゅう限定営業所」の扱いとなりますので、すべての営業所が5台を揃える必要はありません。
※このケースの逆で、トラック事業者も霊きゅう車1台で「霊きゅう限定営業所」を起こすこともできます。
この記事の情報を丹念に読み解けば、なにか閃いた人もいらっしゃるかもしれません。有用な手段となり得るのは事実です。
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それでも専門家が存在するのは、ただの代書屋さんではなく、数年先を見据えた視点で支援を行うためです。
迷いがあるなら早めに専門家にご相談ください。可能であれば、今後も相談でき、任せられる専門家とお付き合いください。
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